2012年08月29日

フランク・シナトラが受けた屈辱





(シルヴィオ ピエルサンティ「イタリア・マフィア」より)


・フランク・シナトラが受けた屈辱

1960年代、アメリカのコーザノストラは新たな大使として、フランク・シナトラを大使としてシチリアに送った。
シチリアで次期の大ボスとして有力視されていた、ジェンコ・ルッソに会うためだ。
シナトラは気がすすまなかった。
しかし、シナトラとしても、その命令に背くことはありえない。マフィアの後ろ盾なしに、シナトラの歌手としての成功はありえなかったのだから。
シチリアに着いたシナトラに対し、ジェンコ・ルッソは最大の屈辱を与えた。

フランク・シナトラの泊まるホテルへ車が到着し、シナトラをドン・ジェンコの屋敷へ案内した。シナトラはボディガードを一人もつけなかったが、それはドン・ジェンコの敷地内にいる限り、、自分の身柄は安全だとドン・ジェンコに示すためだった。

シナトラは彼に弱みを見せたくなかった。田園の巨大な家の中庭に降りていく。その家は特別に豪華とも言えなかった。ボスはブドウ畑を訪れているので、待っているように言われた。1時間後、遅れたことには一言もなく、大きな広間に案内された。中央の大テーブルには、豪華な食事が用意され、12人の男たちが腰かけていた。ドン・ジェンコは当然のごとく主賓席に座る。他の男たちはまるでボスのクローンのように見えた。皆真っ白のワイシャツとサスペンダー、ノーネクタイ、毛深い胸板を誇示し、十分に手入れをした黒ひげをはやし、コッポラ(ベレー帽)をななめにかぶっていた。



皿にはまだなにものっていなかったが、皆すでに赤ワインを飲んでいた。ボスは大きなスープ入れを三つ持ってこさせる。一つはヒヨコ豆とパスタのスープ、シチリアの名物料理である。実にカロリーの高い料理だ。しかしマフィアは健康のことは考慮しない。コレステロール値が高いことより以前に別の理由で死ぬことが多いからだ。どんなときでもどんな場所でも起こりうることである。生きている間はできる限り人生の喜びを味わっておこうと考える。

次の日も、その次の日も、シナトラは健康診断の結果を気にする余裕もなく席につかされた。ドン・ジェンコから最も遠い席だった。空の皿に、銀の杓で料理が盛られる。決まって最後がシナトラである。マフィアの伝統的なしきたりなのだ。ゲートインした競走馬がレースのスタート合図を待たされている時のように、ボスが食べ始めるのをみんなが待つ。ボスが一口目を口に入れると同時に全員が同じように食事を始める。何分かは食べる音だけが聞こえ、誰も話をしない。

美味だったことを示す儀式として、お皿に残ったソースをパンですくって食べる。これもボスが始めると同時に全員が真似をする。

自家製の大きなパンを左手で胸の前に持ち、右手でズボンの右ポケットから自分のジャックナイフをだし、一切れを胸の方向に切り落とす。次に左側の人にパンをまわす。その人もナイフをポケットから出してパンを切る。パンがシナトラにまわってきた。シナトラは赤面して、パンをどうしたらよいかわからずにいた。彼はふだんナイフなど持ち歩いていなかったのだ。全員が信じられないという様子でシナトラを見た。『名誉ある男』がジャックナイフひとつ持っていないなんて、ロビンフッドが弓を持っていないか、三銃士が槍を持っていないかという事態だ。目をつむれないことである。「うんざりするやつだ」と年配の男が若者に冷たく教える。

ドン・ジェンコが給仕に「ドン・フランチェスコにナイフを」と命令する。『ドン』(尊敬の意)をつけてナイフを持たない男を皮肉った。これは最高の冷やかしである。嵐のような笑いをさそった。

会話は、最近の殺人罪のことや、政治家の友人の手助けで行った違法な入札についてだった。
ボスは上機嫌のように見えた。フランク・シナトラは屈辱を受け、仲間外れにされていた。ボスは彼に一言もかけず、食事が終わるまで完全に無視した。最後にテーブルから立ち上がったボスは、突然厳しい口調でシナトラに「それで?」と尋ねた。ジョン・ケネディ大統領の個人的な友人で、ハリウッドスターのシナトラ。何百万人ものファンを抱え、世界中の美しい女性が彼の足もとにひざまずき、アメリカのコーザノストラの大ボスから大使として送られてきた男、高圧的で喧嘩好きの男が、一言も答えられなかった。

ボスの質問は一言だったが、多くの意味合いが含まれていた。
「それで、誰がボスだかわかったか?それで、本当の『名誉ある男』がどんなものかわかったか?それで、自分たちがビジネスの仲介にきた男をどのように扱うかわかったか?それで、ここではアメリカの監視は必要ないことがわかったか?もし来たかったら来てもかまわないが、指揮をとるのは俺たちだ。それについて異存はないな?」

実に明白だ。シナトラは同意しうなだれる以外にはなかった。ボスの車でホテルに送られたシナトラは、ボディガードにすぐに旅支度を整えるように命令し、彼のプライベートジェットでニューヨークへ向かった。無事でよかったと思いながら。あのとき、生きてドン・ジェンコの家から出られないのでは、と本気で思ったのだ。

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タグ:マフィア
posted by YenGood at 19:50 | Comment(0) | 裏社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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