2012年09月02日

大山倍達が語る「強いとはどういうことか」


(夢枕獏「薀蓄好きのための格闘噺」より)

もう17年以上も前になると思う。
極真空手の創始者、大山倍達総裁にお会いしたことがある。

大山総裁はそれまでのノンコンタクトの空手から、フルコンタクトの空手を作り上げた人物である。伝統派空手の試合は、それまで実際に相手に拳や蹴りをあてないで行われていたのだが(沖縄では、今も、当てて試合をしている流派もある)大山氏が主催する極真会館の空手の試合は、実際に相手の身体に拳や蹴りをあてるルールを採用したのである。

漫画「空手バカ一代」のモデルとなった方であり、アニメにも映画にもなったので、ご存じの方も多いであろう。
すでに故人となられてしまったが、自らの体験から発せられる言葉は迫力があって、真実味があった。

ある雑誌で、毎回さまざまな流派の格闘家と会って対談をするという企画があって、その仕事でお会いしたことがあるのだが、大山総裁の話のおもしろさは特別だった。

「強いとはどういうことですか」

毎回、何人かの格闘家の方たちに同じ質問をしたのだが、一番シンプルで、しかもユニークであったのは大山総裁の答えであった。
質問は実のところ、かなり抽象的なものになっているところがミソ。
答えはなかなかむずかしい。正解のない問いであり、ともすれば「心である」と答えたくなってしまうところだ。

大山氏は、ぼくの目の前に両手を持ち上げて、二本の親指を突き出してみせた。

「あなたね、強いというのはね、この二本の親指で逆立ちができることなんですよ」

ころりとした、太い、丸みのある、どちらかと言えばやさしい親指であった。
もちろん、おっしゃる以上、大山氏はそれができるのである。
氏は若い頃、親指と人差し指の間に、立てた十円玉をはさんで、二つ折りにすることができたという。

「それができるとね、たとえばわたしは、この二本の指(親指と人差し指を見せて)で、あなたの鼻をもぐことができるのです。耳だって、ちぎることができます」

静かな声でおっしゃるのである。

「こんな人間とケンカしたがる人がいますか」

おりません。
半分は、対談相手であるぼくへのサービスとしても、強さと精神とを結び付けて考える答えが多いなかで、徹底した肉体論をもって答えを示した大山氏の言葉は、リアルにぼくの耳に今も残っているのである。


薀蓄好きのための格闘噺
薀蓄好きのための格闘噺夢枕 獏

毎日新聞社 2007-09-01
売り上げランキング : 799164


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
タグ:武道
posted by YenGood at 14:22 | Comment(0) | 武道、格闘技 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
人気記事
    タグクラウド
    ×

    この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。